アショーカのレヴュー再開
著者の公式サイト経由でここに来られた方はご存知のように、公式サイトが先日大幅にアップデートされた。著者の写真が再び掲載されたのは嬉しいし、何より活発なレヴューが再開されたのは朗報。この人の読書量はハンパではなく、小説でもブッカー賞候補作を全部読んで受賞作を予想するかと思えば、ロマンスものにもかぶりつく。そういう中からこれはと思えるものを選んでいるから、この人が誉めているものはまずはずれはない。趣味が合うかは別として、面白くないものはないのである。
一番新しいエントリーはわが国ではちょっと公開されそうもないインド映画を取りあげているので、今回はパス。
その前が最近はまっている「改変歴史もの」の新しいシリーズを取りあげている。 「改変歴史もの」はもともとアショーカの好物の一つで、Harry Turtledove はじめ、いくつかの作品を過去のブログでも取りあげている。中でも最近のお気に入りは S M Stirling の "Change" 三部作。この人はわが国ではミリタリーSFの書き手としか知られていないし、邦訳も映画のノベライズが1冊あるだけのようだが、実際には「改変歴史もの」の書き手としての方が大きい。
スターリングについてはまた別の機会にして、今回取りあげているのはオーストラリアの新人作家 John Birmingham の WEAPONS OF CHOICE (2004) 。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/0345457137/ashokbankerse-22/
続篇の DESIGNATED TARGET はすでに出ていて、今年年末にマスマーケットになる。第三作 FINAL IMPACT は来年1月の刊行予定。
アマゾンの Publisher's Weekly の紹介を読むと、出だしは典型的な改変歴史ものだが、実際には改変歴史ものにはめずらしく、単純な欲求充足を求める向きには「居心地の悪い」のものになっているらしい。つまり小説としてより成熟し、一段深いレベルで面白いわけだ。
アショーカはずいぶん前に、この小説の版元 Del Rey Books の敏腕編集者 Betsy Mitchell から、オーストラリア作家のすばらしい歴史再編三部作を獲得した、と聞いていた。それがつまりこの作品だったわけである。ちなみにミッチェルは仕事を変わる前にアショーカの『ラーマーヤナ』シリーズを「発見」、契約した編集者で、その鑑識眼には定評がある。その彼女がすばらしいと言っていた評価にたがわず、バーミンガムのデビュー作はスリルとサスペンスに満ちた極上のエンタテインメントであると同時に、歴史改変ものでしかできない体験もさせてくれる。
アショーカの不満としてはいささか死体の数が多すぎることと、もう少しドラスティックな歴史の変更があってもよかったこと、それにここでも第二次大戦の枢軸国側の描き方があまりに単純に「悪者」になっていることだ。その点ではハリー・タートルダヴは第二次大戦の敵同士である双方にあった人種差別や偏見の描き方のバランスが絶妙で、人種問題を越えて、物語の核心にある人間存在のディレンマをあぶりだしている。バーミンガムはまだそこまでは行っていない、ということだろう。
それを言いだせば、歴史改変ものがのきなみ戦争ものでもあるのはどうしたことか。「平和」は選択肢にはないのか。とアショーカはより大きな不満も述べる。
それでもキャラクターは幅広く、興味深いし、バランスがとれている。アクションと政治の絡み方もうまい。小説としての完成度は相当なものだし、続篇が待ち遠しい。マスマーケットが出るまで2ヶ月待てずにトレード・ペーパーバックを買ってしまうかもしれない。
最新鋭核融合動力艦からなる近未来の国連軍が第二次大戦にタイムスリップする話だし、舞台はインドネシアだから、当然旧日本軍が関わってくる。国連軍側には自衛隊の艦船も加わっている。となると、わが国でも翻訳が出る可能性は相当に高いだろう。